2.能登の塩づくりが生み出した魚醤・いしる

2019年12月24日

第2回目の今回は、能登の魚醤いしるづくりに欠かせない塩のお話しです。

 

先日、『食の起源』というドキュメンタリーで「塩」を特集していました。
生物はもともと海中に暮らしていましたが、およそ37000万年前に進化して、陸上に進出しました。天敵のいない陸上生活を謳歌したわたしたちのご先祖様(両生類)がぶちあたったのが、「陸には塩がぜんぜん無いじゃないか!」という問題だったそうです。
そこで発達させたのが「舌」。どこに塩があるかを探り当てる高精度センサーとして、「舌」と味覚を進化させてきたのです。

 

塩は命をつなぐために必須のミネラルです。「減塩」が叫ばれる昨今ですが、もともと人類は塩のとりこ。塩梅(あんばい)という言葉もあるように、塩は味の決め手でもあります。塩が大好きで、塩から離れられないのがニンゲンなのですね。

 

世界では岩塩を掘り出して活用する地域も多いのですが、海が身近な島国ニッポンでは、古代から海水塩を作り続けています。

能登の塩づくりの歴史は、いつからはじまったのでしょうか?

実は、定かでないほど古くからで、古墳時代には塩づくりのために土器が使われていました。当時は海水を含んだ海草をまとめて土器で焼き、灰とともに塩を手に入れていました。これが藻塩(もじお)です。
中世に入ると「塩浜」が作られました。塩浜とは、海水を濃縮するために作られた砂地です。塩浜には揚げ浜・入り浜の2種類があり、1596年の文献に揚げ浜式の塩づくりが確認されています。

 

NHKの朝ドラ「まれ」をご覧になったことはありますか?
塩づくりを家業とするご夫婦は、海水を桶でくみ上げて、てんびんのように肩にかついで坂を上り、天に向かって海水をサーッとまきます。
海水を含んだ砂は、太陽で温められて水分だけが蒸発し、塩のもとになります。
仕上げに釜で煮詰めると、海のミネラル分をたっぷりと含んだ良質な塩の出来上がりです。これが揚げ浜式の塩づくり。
いまも能登では、500年以上も変わらない製法で塩が作り続けられているのです。

 

自然豊富な能登ですが、意外にも稲作には適していません。
米が税だった江戸時代に、「うちの土地は稲作に不向きで・・・」なんてとても言えませんよね。平地が少ないため、村ごとに段々の田んぼ(千枚田)など、工夫して稲作をしていました。千枚田の絶景を眺めると、昔の人たちへの畏怖の気持ちが湧いてきます。

 

当時の加賀藩では全国でも珍しい制度が立ち上がりました。
能登の塩づくりの職人に対して、日々食べるためや塩の生産費として先に米を貸し付け、職人は塩づくりで返済しました(加賀藩塩手米制度といいます)。しかし、どれだけがんばっても、原則として塩は手元に残せなかったそうです。
こうして出来上がったお塩は、文字通り苦労の結晶。江戸時代は、能登一円に揚げ浜が広がり、一大産業になっていきました。長く良質な塩をつくってきた能登では、いまも美味しい塩づくりが文化として継承されています。

 

魚醤いしるを作るためには、まとまった量の塩が必要です。魚醤いしるの文化が能登で発展したのは、こうした塩づくりと無縁ではあり得ません。
何百年にもわたって作り続けられてきた素材は、地域の宝だと感じています。

 

珠洲には、塩づくりを見学できる塩田村があります。能登へのご旅行の機会があれば、ぜひ立ち寄ってみてくださいね!

 

201912

 

執筆協力・山下悠那
金沢学院短期大学・現代教養学科・2
㈱ヤマト醤油味噌 インターン
現在短期大学に所属し、主にビジネススキルや観光について学んでいます。石川県からの委託事業である海外誘客チャレンジ事業に2年連続で取り組んでおり石川県の観光振興の推進を目的に取り組みを行っています。

 

執筆・文責 山本耕平
㈱ヤマト醤油味噌 に所属し、日々の法人営業とともに発酵食をテーマにワークショップを各地で開催。「発酵食文化を通じてお客様の健康で喜びに満ちた食文化の実現のお役に立つ」を理念に活動中。珠洲の角花さんの塩が好きです。

 

参考文献・リンク
能登半島 珠洲の塩 協議会

http://www.suzusalt.org/whats/history.html
NHKスペシャル 食の起源(2)▽『塩』~人類をとりこにする本当の理由”(2019)
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/46/2586119/index.html
「雪国の春 柳田国男が歩いた東北」 柳田国男、芦澤泰偉(角川文庫 2011

 

外部リンク
ヤマト醤油味噌 魚醤 いしる ページ
https://shop.yamato-soysauce-miso.co.jp/fs/yamato/c/r-ishiru/
糀部レシピ「いしるだしのみぞれ鍋」
https://www.yamato-soysauce-miso.co.jp/koujibupost/k_r_mizorenabe

 
魚醤いしるコラム 連載まとめ
第1回 和食の絶滅危惧食文化、日本三大魚醤とは?
https://www.yamato-soysauce-miso.co.jp/koujibupost/wasyoku_japan_3daigyosyou
第2回 能登の塩づくりが生み出した魚醤・いしる
https://www.yamato-soysauce-miso.co.jp/koujibupost/noto_shouyu_ishiru
第3回 石川県民なら知っておきたい「いしる鍋」の楽しみ方
https://www.yamato-soysauce-miso.co.jp/koujibupost/ishikawa_ishirunabe
第4回 能登の人だけが知っていた野菜をおいしく食べる知恵
https://www.yamato-soysauce-miso.co.jp/koujibupost/noto_oishiichie
第5回 「いしる」×「グルテンフリー」のススメ
https://www.yamato-soysauce-miso.co.jp/koujibupost/ishiru_glutenfree

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